第0回 はじめに

   初めて御覧になる方は、初めまして。前回を御覧になって頂けた方は、有難うございました。コヤマと申します。普段は音楽を作っていて、Lyu:Lyuというバンドで歌とギターをやっております。

   前回の連載が終了してから暫くして、また小説の連載をやってみないか、というお話を頂きました。前回の「はじめに」では、歌の歌詞以上に長い文章を書いたことが無いと書きましたが、もうすでに前回の連載で歌詞以上に長い文章を書いてしまったので、今回はもう言い訳できそうにありません。引き続き、色々と頑張っていこうと思いますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいなと思います。

   歌詞を書く時もそうですが、コンセプトだとか、テーマだとか、そういったものを決めて書くことが一切ありませんので、今回もご多分に漏れず、その瞬間自分が言いたいこと、考えていること、発信すべきだと感じたことをただただ誠実に書いていこうと思っております。

それでは、今回も何卒宜しくお願い申し上げます。

farewell

■10がつ14にち

 今日もおかさあんがきてくれました。いろいろお話をしてたのしかったです。このあいだ教えてもらったツルの折りかたをいっぱい練習したので、おかあさんの前でもすぐ織ることができました。おかあさんが喜んでくれてうれしかった。今度はかぶと(七五三のときとかにかざるやつです)の織りかたをおそわったので、またいっぱい練習します。たのしい日だったのでずっと起きていたかったのだけど、もう寝なさいといわれたのでねます。あしたもまた来てくれたらいいのに。

■10がつ14にち

 あたまがいたくて、背中のほうもいたくて、ごはんも食べたくなかったけど、食べないとなおらないよっていわれてがんばって食べました。ちょっときもちわるい。

■10がつ16にち

 ひまです。わたしはひまになると、絵をかいたり、教えてもらったおりがみを織ったり、テレビをみているのですが、それもあんまりおもしろくなくて、窓のそとをずっと見ていました。私のところからは、中庭がちょうどみえます。わたしとおなじ服を着たひとたちは、たぶんわたしと同じように、ここににゅういんしている人たちでしょう。あと、ときどきクルマが通ったり、ふつうのかっこうをした人が歩いていたりします。わたしはここから出ることができないので、そういう人たちを見ながら、あの人はなにをやってる人なんだろう、どんなしごとをしてるんだろう、とか、そんなことを勝手にかんがえてあそんでいます。いま新しいクルマが通りました。あのクルマにのってる人はどんな人なんだろう。
 わたしが今のわたしじゃなくて、もしもちがう人だったら、そのわたしはどういう人になったんだろう。もっとあかるくて、友達がいっぱいいて、がっこうに行ったり、しごとをしたり、好きなひとができたりしたのでしょうか。わかりません。だって、いまのわたしは、いまのわたしで、それ以外のわたしなんてどこにもいません。でも、もしいたら会ってみたいなぁ。  そこでわたしはひらめいて、新しいあそびをかんがえました。
 おはなしを作るのです。
 わたしが主役になって、いろんなしごとをしたり、いろんなところへ行ったり、ぼうけんをしたりするおはなしです。パンやさんのわたし、ケーキやさんのわたし、先生になったわたし、いろんなわたしをかんがえて、それをおはなしにして書くのです。われながらすごいはつめいをしたと思いました。だって、これならベッドの上からでもどこへでも行けるし、誰にでもなれるから。
 さっそく、さいしょのおはなしにとりかかりました。

■10がつ20にち

 まいにち日記をかくのを、ちょっとさぼってしまいました。
 今日はおかあさんといっしょにおばあちゃんもきてくれました。おばあちゃんはたまにしか会わないけど、いつもやさしいです。おかあさんとおばあちゃんに、わたしが考えたあたらしいあそびの話をしました。そして、きねんすべき最初のおはなしをふたりによんできかせました。わたしがどこかの国のおひめさまになって、わるい国の王様をやっつけるおはなしです。おはなしがおわると、ふたりともとても喜んでくれたのでうれしかったです。でも、そのあと、おばあちゃんはわたしの手をにぎって、×××××ちゃんのびょうきをかわりにもらえるんならいくらでも代わってやるのに、といって泣いてしまいました。おかあさんもちょっと泣いてました。でもわたしは、しわくちゃの手にはなりたくないので代わってもらいたくないです。それに、おばあちゃんがしんじゃったら悲しいから。

■10がつ22にち

 きょうは先生がきただけで、だれもきませんでした。  先生に、いつになったら出られるのかきいてみました。でも、いい子にしてればそのうち出られるよ、と言っただけで、ほかにはなにも言ってくれませんでした。
 おとうさんがまだ生きていたころ、おかあさんがおとうさんの体を心配して、もっとああしてこうして気をつけてよ、と言ったとき、おとうさんは「うるさい、自分のことは自分がよくわかってるんだ」とよく怒っていました。でも、おとうさんの具合がわるくなって、いまのわたしと同じようにずっと寝たきりになってから、おかあさんはおとうさんを怒ったりしませんでした。おとうさんがいなくなってから、わたしはたくさん泣いたのですが、今度はわたしがこんなふうになって、それもおかあさんは怒りませんでした。おかあさんが怒ったり、かなしんだりすると、わたしもかなしいので、おかあさんが来たときは、いつもたくさんおしゃべりをして、おかあさんを喜ばせようと思います。

■10がつ25にち

 ちゅうしゃのはりがこわかった。

■10がつ26にち

 わたしの体がふつうの人よりもよわいのは、何となくわかっています。自分のことは自分がよくわかってるのです。
 今日は体もいたくて、おかあさんの前で泣いたり怒ったりしてしまいました。
 おかあさんが帰ったあとで、窓のそとを見ていたら、わたしとおんなじくらいのこどもが遊んでいました。ふだんは何ともおもわないのですが、とてもうらやましくなって、また泣いてしまいました。どうしてわたしの体は、はしったり動きまわったりできないのでしょうか。わたしだってみんなといっしょにあそんだり、いっしょに勉強をしたりしたかった。それは、ずっとかんがえないようにしてきたことでした。かんがえてはいけないことでした。だって、いくらかんがえても体はうごかないし、また泣きたくなるだけだから。どんなにうらやましくたって、わたしは今のわたし以外にはなれないから。
 また、おはなしをいくつか書きました。こんどはがっこうに行くおはなしです。がっこうがイヤになって、がっこうを飛びだして、でもやっぱりみんなに会いたくなって、またがっこうに戻ってくるおはなしです。なかなかよく書けたと思います。はやくおかあさんにきいてもらいたい。

■11がつ1にち

 おかあさんと先生が話しあって、わたしの手術をする日がきまったみたいです。おかあさんと先生からききました。おかあさんも先生もわらっていて「大丈夫だよ」と言っていました。わたしはいたいのはイヤなので、ほんとにいたくないのか何度もききました。先生は、×××××ちゃんが眠ってるあいだにぜんぶおわっちゃうから全然いたくないよ、と言っていました。
 夜になると電気が消えて、そしたらもうねないといけないのですが、今日はねむれませんでした。あたまのなかで、ずっと「手術」ということばがぐるぐるまわっていて、わたしがねるのをジャマしてくるのです。手術がおわったら、みんなと一緒にあそべるようになるのでしょうか。いっしょに勉強できるようになるのでしょうか。がっこうに行ったり、しごとをしたり、だれか好きなひとができたりするのでしょうか。

 わたしは、自分の体がとてもわるいことはわかっています。先生もおかあさんもはっきり言わないけれど、自分のことなのでわかるのです。手術がおわっても、具合がわるいのはかわらないかも。もしかしたら、そのまましんでしまうかも。そう思うと、もっとたくさんたくさんおはなしを書きたくなりました。わたしの手がまだうごいているうちに、あたまがちゃんとものをかんがえてくれるうちに、わたしが好きだったものや、なりたかったものや、行きたかったところ、さわりたかったもの、話したかったひと、そういうものをもっともっと書きたくなりました。
 じかんはもうあまりありません。
 おかあさん、ごめんなさい。わたしがよわいばっかりに、いつもおかあさんを悲しませてばっかりで、ほんとうにごめんなさい。

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■××がつ××にち

 手術のひがきました。
 てが、もうあまりうごきません。
 からだにくだがついて、くちもふさがれていて、しゃべれません。

 もし、このにっきをよむひとがいたら、ひとつだけおねがいがあります。
 わたしのかいたおはなしを、ひとつだけでも、よんでみてください。
 あなたは、まだ、どこへだっていけます。
 まだ、なににだってなれます。
 わたしのものがたりをよんで、たのしい、うれしい、かなしい、おもしろいきもちになったなら、あなたはそこへいって、わたしのかわりに、たしかめてほしいのです。

 オーロラのいろはほんとうはなにいろか。
 ラクダのせなかののりごごちはどうか。
 さばくのおうさまはちゃんとねむっているか。
 こどもたちがよるになにをみているか。

 あなたは、まだ、どこへだっていけます。
 まだ、なににだってなれます。
 そのてとあしで、たくさんのものを、みて、たしかめてください。
 わたしのものがたりが、ただしいのか、まちがっているのか、それをたしかめることができるのは、あなただけです。
 どうか、おねがいします。

 それでは。
 ほんとうはいわずにすむのがいちばんだけれど、いえないままきえてしまうのはさびしいので。

 さようなら。